新卒で入社した会社を辞めるまで part.14

新しい部署で1ヶ月程経ったある日。

僕は死を覚悟した

最悪の仕事場へ派遣される事になった。

 

その現場は地上40m程の高さの

塔の修理だった。

その塔の何を修理したのかは

今だによく分からない。

というより僕はほとんどの仕事で

何がどうなれば作業完了なのか

分からずにやっていた。

 

仕事を好きになれないのは正に、

仕事の内容を把握できてないから、

達成感もやりがいも

感じられなかったからかもしれない。

 

塔の修理は塔のてっぺんで行われた。

塔は上から下まで吹き抜けで、

人が4〜5人ほど並べばギュウギュウになる、

狭さだった。

 

塔のてっぺんから落ちれば間違いなく死ぬ。

40m下にそのまま落ちるから。

 

僕はここでどんな作業を

やらされるのだろう。

考えただけで少し気分が悪くなった。

 

まず塔の中は吹き抜けなので、

足場板を作らないといけない。

足場職人の人達が僕等の為に足場を作る。

その足場は、

塔の中にある凹みや数カ所にある

手をかける事ができる金属のとってに、

針金(結構太い)を引っ掛けて、

足場に巻きつけ固定するという

簡易的な足場をつくってくれた。

この足場板が外れたら間違いなく死ぬ。

 

足場職人の人達には悪いが、

こんな針金で固定されただけの足場に

命を託すのは、あまりにリスキーだと思う。

だが僕の会社のおっさん2人は、

普通に足場に飛び乗った。嫌だ怖い。

その足場は人一人が立つスペースしかなく、

踏外せば転落だ。

怖くて怖くて仕方なかった。

 

そしてその足場板でこれからやる作業は、

塔の中のネジを抜いて

新しいネジに変えることだった。

ただこのネジがあまりに錆びていて、

一筋縄では外れない。

自分の体重や力を全力で使って、

ようやく外れるようなものだった。

工具がネジから外れれば、

間違いなく体のバランスを崩して

転落するだろう。

嫌だ。こんな作業したくない。

僕は逃げ出したかったが、

もう逃げ出すことは出来なかった。

 

今ここにいるからやるしか無かった。

 

僕は足場板に足をかけて飛び移る。

足場が少し揺れてチビりそうになる。

 

足場に飛び移ったら、

次にネジを外すのだが、

最初はおっさん達の作業を見るだけになった。

見ている途中、

腰から安全ロープを塔のどこかに

引っ掛けておけば、

足を踏み外しても転落は免れると思い、

安全ロープを引っ掛けた。

気休めにはなるだろう。

 

おっさん2人は安全ロープをしていない。

落ちたら死んでしまうのに

怖くはないのだろうか。

 

このネジを変えるだけの作業は内容を

聞くだけなら簡単そうに聞こえるが

かなり難しかった。

まず足場板の上なので身動きが取りづらい。

少し変な位置にネジがあると、

かなり無理な姿勢で

ネジにスパナを掛けなければいけない。

これがしんどく、

下手をすれば力が入らない体勢になる。

 

ネジの数は20本くらいあるが

1本変えるのに20分くらいはかかった。

途中で見ているだけの僕も、

メガネのおっさんに、

見ているだけじゃのうて、手伝ってくれや!

と強めの口調で言われた。

僕は怖かったがネジを、

抜くためにスパナを持ち、

少し無理のある体勢で力を入れ

ネジを抜こうとする。

だけどネジはビクともしない。

5分ほど粘ったがどうにもならなかった。

 

背の高いおっさんが、

もうええ!変われ!と僕のスパナを取り、

交代する。

僕は少し安心して撤退した。

 

そして20分くらいして、

またメガネのおっさんに、

いつまでみとるつもり何なら!

とどやされる。

僕はまたネジ変えにトライする。

その時に、安全ロープを付け替えないと

ネジが届かない位置にあったので、

安全ロープをいったん外し

別の場所に掛けようと思い

掛けられる場所を探した。

すると、メガネのおっさんが、

安全ロープなんてかけんでええんじゃ!

と言って僕に

早くネジを抜きに来いと急かす。

安全ロープがないと怖かったが、

怒鳴られるのも嫌なので安全ロープをせずに

ネジを抜こうとする。

やはり抜けない。

今度は力を入れすぎて

バランスを崩せば下手したら落ちてしまうの

余計に怖くて力を使えなかった。

 

またしても背が高いおっさんが、

もうええわ!と言って怒りながら

スパナを、僕の手から取り上げた。

僕は仕方ないからまた、

安全ロープがかけられる

場所に戻ろうとした。

すると、メガネのおっさんが、

おめぇ!!ふざけんなよ!!

と大声で叫んできた。

なんでやらんのなら!

少しはやろうとせえや!!

とかなりキレていた。

 

今までの僕のすぐに諦めてしまう

癖が積もり積もっておっさんの我慢の

限界がきたのだろう。

僕は震えながら、

またネジを抜くために戻った。

どうしてもネジが抜けなかった。

体は震えて足に力が入らない。

そんな中ネジを抜くために力いっぱい

体を傾けた。僕は体勢を崩した。

ヤバい死ぬ。

そう思ったがギリギリのところで

足だけで体が仰け反るのを

踏ん張って耐えた。

死んでた…。

そう思うともうネジなんて抜けない。

そうしか考えられなくなった。

 

だけどメガネのおっさんは、

おめぇなんか落ちて死ねえ!!

はよネジを抜け!死ね!

そう叫びながら僕を急かしてきた。

僕は涙が出そうになった。

でもネジは抜けなかった。

 

背の高いおっさんがもうええわ!

とまた僕からスパナを奪いネジを抜く。

メガネのおっさんは、オメェなんかいるか!

落ちて死ね。くたばれや!

と僕に罵声を浴びせながら作業していた。

 

僕はもう死んでもいいかなと思った。

仕事ってこんなに苦しいなら、

いっそのこと

死んだほうがいいかもしれない。

これからの苦しみから逃れるために。

 

そう考えた。

だけど当時の僕は

死ぬことさえ怖くて出来なかった。

だから今ちゃんと生きているわけだが。

 

[退職まで残り60日]